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旭川地方裁判所 平成10年(ワ)294号 判決 1999年10月01日

原告

浅野悦子

被告

大内寛

主文

一  被告は、原告に対し、金六九五万円及びこれに対する平成七年七月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その一を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

被告は、原告に対し、金一五四五万九一七〇円及びこれに対する平成七年七月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、道路を横断歩行中に普通乗用自動車に衝突されて死亡した訴外小桂ツキの相続人である原告が、右自動車を運転していた被告に対し、自動車損害賠償保障法三条に基づき、損害賠償を請求したという事案であり、中心的争点は、(一)逸失利益等の損害額の認定、(二)過失相殺(過失割合)である。

一  (前提事実等)

以下の各事実等は、証拠を括弧書きで摘示した部分を除いて、当事者間に争いがない。

1  本件事故の発生

次のような交通事故が発生した(以下「本件事故」という。)。

(一) 日時 平成七年七月一一日午後〇時二五分ころ

(二) 場所 旭川市緑が丘三条三丁目一番地(以下「本件事故現場」という。)

(三) 事故車両 普通乗用自動車(旭川五七ま二五五八。以下「被告車両」という。)

(四) 運転者 被告

(五) 被害者 小桂ツキ(明治四五年一月一〇日生まれ。事故当時八三歳。以下「亡ツキ」という。甲一)

(六) 態様 道路を横断歩行中の亡ツキに、直進していた被告車両が衝突した。

2  亡ツキの死亡

亡ツキは、本件事故の結果、平成七年七月一一日午後一時ころ、多発外傷による血胸により死亡した(甲二)。

3  原告の相続

亡ツキの相続人は、その長男である浅野悦男と長女である原告浅野悦子の二名であり、亡ツキの死亡により、各二分の一ずつの割合で亡ツキの権利を承継した(甲四、六)。

4  被告の責任原因

被告は本件事故当時、加害車両を自己のために運行の用に供していたから、自動車損害賠償保障法三条の損害賠償責任がある。

二  (原告の主張)

1  損害

(一) 逸失利益 七四一万八三四一円

亡ツキは、死亡時八三歳であったが、稼働の意思と能力を持っており、就労可能年数は、簡易生命表の平均余命年数の二分の一である三・八七を切り上げて四年とするのが相当である。

亡ツキの得べかりし年収は、平成六年度の賃金センサスによる女子労働者の産業計・企業規模計・学歴計の平均賃金を基準として、二九八万八七〇〇円と算定するのが相当である。そして生活費控除率を三割として、ライプニッツ式にて中間利息を控除して(係数三・五四五九)、逸失利益を算出すると、次の計算式のとおりになる。

二九八万八七〇〇×(一-〇・三)×三・五四五九=七四一万八三四一円

(二) 葬祭費用 一五〇万円

(三) 慰謝料 二二〇〇万円

三  (被告の主張)

1(一)  亡ツキは、本件事故当時満八三歳と高齢な無職者であり、かつ就労の蓋然性もないから、逸失利益は発生しない。

(二)  葬儀費用は、一〇〇万円程度が相当である。

(三)  慰謝料は、一七〇〇万円が相当である。

2  過失相殺

本件事故現場には、歩行者専用の横断地下歩道が設置され、かつ付近の歩道には歩行者の横断を妨げる高さ約七〇センチメートルの鉄パイプ制の防護柵が設けられていたにもかかわらず、亡ツキはあえて横断地下歩道を通行せず、防護柵を越えて車道を横断していたものであり、亡ツキにも車道を通行中の車両の動静を十分確認しなかった過失があるから、過失相殺をするのが相当であり、その過失割合は少なくとも三割と認定されるべきである。

3  一部弁済

被告は、浅野陸夫に対し、平成七年七月一二日、葬儀費用として五〇万円を支払った(乙二)。

第三争点に対する判断

一  損害額について

1  逸失利益 認めない。

原告は、亡ツキは八三歳ではあっても稼働の意思と能力をもっていたから逸失利益の損害がある旨主張する。

しかしながら、亡ツキは、本件事故当時に八三歳と高齢な無職者であって、原告と同居し、その生計を原告の収入に依拠しており(乙六)、就労する蓋然性があったものとは認めることができないから、その逸失利益を認めることはできない。

2  慰謝料 一八〇〇万円

本件事故の態様、亡ツキの年齢、生活状況等の事情を考慮すると、亡ツキの慰謝料の金額としては一八〇〇万円が相当である。

3  葬祭費用 一二〇万円

葬祭費用としては、一二〇万円が相当である。

以上1ないし3によれば、原告の損害額の合計額は、一九二〇万円となる。

二  過失相殺(過失割合)について

1  前記前提事実のほか、証拠(乙三ないし五、七ないし一〇)によれば、以下のとおり認めることができる。

(一) 本件事故は、被告が本件事故現場を通過するにあたり前方及び右方を注視すべき義務があったにもかかわらず、これを怠って漫然と脇見をしながら進行した過失によって発生した。そして、被告は本件事故現場を毎日のように通っており、近くには商店街があり、本件事故現場付近で横断歩道があるのは約一五〇メートル離れた交差点であるために地下歩道を通らずに防護柵をすり抜けて道路を横断する者がいることも認識し、予見することができたものであること、亡ツキが本件事故当時八三歳の老人であり、自動車を運転する者には一層の注意が要請されることなどを併せ考えると、被告の過失は決して軽いものとはいえない。

(二) しかしながら、他方で、本件交差点付近には、地下歩道が設けられ、この地下歩道出入口の前後には歩道と車道とを分ける高さ七〇センチメートルの防護柵が設けられており、歩行者が横断することを禁止する構造になっていたこと、被告車両が走行していた豊岡神楽線は幹線市道であり、交通量も比較的多いこと、本件事故現場は、T字型交差点付近であり、豊岡神楽線に、南南東方向の道路がほぼ垂直に交差するものであるところ、豊岡神楽線を東光方面から国道二三七号線方面に向かって進行する車両にとって、交差道路のある左方に比し、右方には注意が向きにくい面があることに照らすと、亡ツキとしても、防護柵をすり抜けて左右の安全を十分に確認しないまま横断した点について、過失があったということができる。

2  右認定の事実及び説示を総合考慮すると、原告の過失割合を二割五分として過失相殺をするのが相当である。

したがって、亡ツキの損害額一九二〇万円のうち、原告の過失割合二割五分を控除すると、残額は一四四〇万円となる。

三  一部弁済

被告は、葬儀費用として五〇万円を既に支払っていることを認めることができるから(乙二)、右過失相殺後の一四四〇万円から既払額五〇万円を控除すると、残損害額は一三九〇万円となり、さらに二分の一の割合で相続した原告の損害賠償請求権の金額は六九五万円となる。

四  結論

以上によれば、原告の被告に対する請求は、六九五万円及びこれに対する本件事故日である平成七年七月一一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、その限度で認容することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 齊木教朗)

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